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テック産業アナリスト-のと裕行のライフイノベーションコラム-73

未来(Future)×テクノロジー(Technology)=未来テクノロジー(FutureTech)①半導体という未来へのカギ

●「産業のコメ」といわれる半導体の重要性

 

日本の【半導体産業】は、かつて世界の50%のシェアを誇っていました。

しかし現在は、10%に満たず、その再生へ向けて、日本政府とメーカー、大学研究機関、

そして、世界最大の半導体受託生産会社(ファウンドリー)、台湾の『TSMC』の協力の元、復権に向けて動き出しました。

 

また、世界の産業界は今、深刻な【半導体不足】に陥っており、日本でもトヨタ・日産・マツダなどの自動車メーカー、パソコン、スマホ、ゲーム機、ファックスや、エアコンなどの家電製品などが【半導体不足】により生産工程に影響が出ています。

 

この【半導体】不足の背景には3つの理由があるといわれています。

 

① コロナ禍におけるリモートなどによるパソコンやゲーム機の売り上げが好調であること。

② 世界の急速なデジタル化の影響による米中の技術覇権争いがエスカレートし、サプライチェーンなど供給網の囲い込みにより、『TSMC』や『サムスン電子』に生産が集中したこと。

③ 運悪く各国での半導体工場の火災の影響が、重なったことが原因です。

ちなみに3月19日に火災になった日本の国内自動車メーカー8社に影響を及ぼした『ルネサスエレクトロニクス』の半導体製造工場は、6月24日に100%復帰しました。

 

そして、これらの現状を踏まえた日本政府は、5月2日にあった成長戦略会議で、【半導体産業の再生】について話し合い、5月4日には、経済産業省が日本の『半導体・デジタル産業の新戦略』を発表しました。

 

梶山経済産業省大臣は、「失われた30年の反省を踏まえて、大きく政策転換を図りたい」とメッセージを送り、また、自民党がイニシアチブをとる「半導体戦略推進議員連盟」でも、「半導体戦略が今後の国家の命運をかける戦いであり、半導体を制したものが世界経済を担う」と言及しています。

 

そして、経済産業省は、『半導体・デジタル産業の新戦略』の目玉プロジェクトとして、茨城県つくば市に『TSMC』の研究開発拠点を新設し、最先端半導体の開発を進めると発表しました。

総事業費約370億円の内、日本政府が190億円を負担する予定です。

 

『TSMC』は、日本で完全子会社『TSMCジャパン3DIC研究開発センター』を設立し、

半導体製造工程の「後工程」に取り組む予定です。

そう考えると、今までファウンドリーがメインだった『TSMC』にとっては、「後工程」のノウハウ開発とその工場が将来完成すれば、大きなメリットであることは間違いないはずです。

 

しかし、私はここで懸念が1つあります。

共同開発した技術だけ持っていかれないかという心配です。日本は、過去にも何度かこの過ちを犯しているからです。また、このプロジェクトには、日本が半導体産業において世界に誇る『イビデン』などの「材料・素材メーカー」や『芝浦メカトロニクス』など「装置メーカー」の約20社が参加予定です。

 

『TSMC』の会長が会見の席で、わざわざ日本には自社の技術は流さないと断言したように、

新たな展開と同時に、日本のテクノロジーを守ることも日本の半導体産業の支援であり発展です。

 

●「半導体」について簡単解説

 

ではここで、一般的に【半導体】といってもなかなかイメージがわきません。そこで、私なりに【半導体】について簡単に説明します。

 

【半導体】は「産業のコメ」と呼ばれていますが、まさしく産業界になくてはならない存在です。特にこれからの未来テクノロジーといわれる「AI」「5G・6G」「IoT」「EV車」「ロボット技術」には必要不可欠であり、DX社会の要といっても過言ではありません。

そして、この【半導体の機能】には大きく3つの役割があります。わかりやすくスマホを使って解説します。

 

一つ目は、「プロセッサ」という指示内容を解読して実行するする機能で、例えば音楽が聴きたいと指示すれば、スマホ内でこのアプリを使うとか、カメラならこの機能、ネットショッピングならここに繋ぐなどと考えてくれる「人間の脳」のような機能です。

 

二つ目は、「半導体メモリ」で、電話帳を始め、静止画・動画・プログラムを記憶する役割です。また、記憶には様々な仕組みがありますが、代表的なものは、電源を入れなくても保存してくれるROMと、電源を送らないと保存できないRAMに分かれています。

 

三つめは、「通信半導体」で、通信機器に電波や信号の送受信するための半導体です。

「Wi-Fi」「Bluetooth」や「スマート家電」「コネクテッドカー」など次世代のネットワークを担うものこの半導体です。

 

次に半導体の生産工程を解説します。

 

工程には三段階があり、

・先ずはメーカーが行う半導体の「企画・設計・開発」。

・次にその設計をベースとした「前工程」といわれるファウンドリーで、ICチップの小型化や高性能化を目的とした集積回路の微細化などの「回路形成」作業。

・最後に「後工程」である集積回路の切り出し、3Dパッケージ、封入、検査などの作業があります。日本のつくば市での展開は、この「後工程」を念頭に置いています。

 

●日本の半導体テクノロジー

 

そして、日本が現在、世界で活躍する半導体企業は、これらの作業工程ではなく、製造工程に必要な約2000ともいわれる材料・部材などの「素材技術」と装置などの「設備技術」です。

またその素材・設備開発は、努力を重ね新たなテクノロジーを日々誕生させているのも日本です。

 

例えば、この4月に発表された佐賀大学が開発した「ダイヤモンド半導体」は、通常、半導体のメイン素材は、シリコン製ですが、ダイヤモンドに置き換えれないかと、世界で2000年頃から進められてきましたが、ついに日本で成功したのです。

これは、高出力で耐久にも優れ、その性能を表すバリガ性能指数では、なんとシリコン製の約5万倍の数値を出しています。

 

他にも京都大学のベンチャー企業『FLOSFIA(フロスフィア)』が中心となり開発した「酸化ガリウム半導体」は、素材としてパワーデバイスの性能がシリコンの3000倍といわれ、更にはCO2の排出量を抑える省エネ効果もあり、実用化されれば日本だけで原発4基分の電力消費を抑えることができるのです。

 

●最後に「半導体」への思い

 

このように【半導体】は、コロナ禍に影響されることなく右肩上がりに成長する市場というだけでなく、未来テクノロジーの扉を開けるカギとなるのが【半導体産業】です。

そして、今や「日本産業のコメ」にとどまらず、「世界産業のメインディッシュ」となりました。

 

【日の丸半導体】が、全製造工程(サプライチェーン)で活躍し、世界の産業に貢献できるように今後も応援したいと思います。

 

テック産業アナリスト 能任裕行