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テック産業アナリスト-のと裕行のライフイノベーションコラム-14

■5月2日 コラム14

農業(Agriculture)×テック(Technology)= 農業テック(AgTech・アグテック)②
~スマート農業という農家イノベーション~
私は趣味の一つに株式投資があります。とはいえ様々な業界を知るために、こじんまりとですが、その情報源の一つ「株探ニュース(Kabutan・https://kabutan.jp/)」の4月15日の特集に「アフター“コロナ”と食料争奪戦の世界、急浮上「農業関連株」を追う」という記事がありました。
その中の記事に『新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響で、食料の安定供給に対する不安が高まりつつある。大規模な移動制限による人手不足や物流の混乱に加え、一部の国が自国を優先するため食料の輸出制限に乗り出す動きをみせているからだ。既に国際連合食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、世界貿易機関(WTO)の国連3機関が警鐘を鳴らしており、食料を輸入に依存する国の懸念材料となっている。農林水産省によれば「食料品は十分な供給量・供給体制を確保しており、コメや小麦の備蓄についても十分な量を確保している」ことから当面の不安はないが、足腰の強い農業の確立は急務で関連銘柄に注目したい。』とありました。
コロナ以外にも現在、農作物を食い尽くすアフリカから中国へと移動する200兆匹のサバクトビバッタの被害など、1500万とも2000万人とも云われる深刻な食糧危機が世界に訪れる警鐘を国連3機関だけでなく専門家が訴えます。その中で日本の問題は、前回取り上げた農業自給率のアップと食料安全保障における国際貿易です。記事の通り、農林水産省が食糧確保してるとしても、アフターコロナの更なるアフターに備えなければ、本当の問題解決にはならないはずです。
そして、そこに登場するのが今回のテーマ【スマート農業】です。私は、日本の未来は、これからの農業政策にかかっていると真剣に思っています。皆さんも意識してください。そして、農業に取り組む地方を人を、その土地で作られた作物を食べて、一緒に応援しましょう。


●スマート農業は産官学の一体のアライアンス

今回は、【農業テック】の第二弾として、農林水産省が取り組む【スマート農業】についてご紹介させて頂きます。【スマート農業】を簡単に説明すると、AI、ロボット技術やICT(情報通信技術)を取り入れ、農作業の効率化や生産者の意識改革、そして現場から経営までをイノベーションする農業のことです。つまり【農業テック】と【スマート農業】は同意語だと考えて頂いて問題ありません。
日本では、2019年が【スマート農業元年】と言われ、予算化、技術開発、実証実験など農林水産省が中心となり、産官学で様々な取り組みを行っています。もちろんそれ以前も様々な取り組みを行って来たのですが、昨年プロジェクトのリデザイン(国や社会、農家の方に貢献することを見直す意味)されたのです。また政府が取り組む【スマート農業アライアンス】には約1700団体がパートナーとなり新たなビジネスモデルにチャレンジしています。ちなみに私が勤める富士通も独自のテクノロジーをベースにJAさんや地域と連携を図っています。
では、その実情を理解するために、改めて農林水産省の取り組みもご紹介しておきます。管轄としては、『農業』『畜産業』『林業』『水産業』の4つに関する食糧の安全、安定供給、農業振興や効率化に貢献しています。具体的には、農業に必要な水の供給や、田畑の整備、農地の防災など農家の発展を支える公共事業を行います。代表的なものに「圃場整備(ほじょうせいび)」があります。昔ながらのふぞろいの田畑の形を整え、水路や道路の確保をすることで、大きな機械での作業が可能となり作業効率を向上させる目的で整備します。
このように農業は、「農家という生産者」と「地域という自治体」との連携、そして「食及び農業関連企業」と「消費者」の活性化が大きなテーマであり、これらを結び、イノベーションするのがICTを活用した【スマート農業】です。

●人にやさしいスマート農業

それでは、私が個人的に気になっている【スマート農業】のテクノロジーを2つ、農家という家族を切り口に、ご紹介します。

・1つ目は、「パワーアシストスーツ」
これは農作業をする上で力の弱い方の不安を解消するものです。
これを装着することで、センサーが身体の動きを読み取り、荷物の上げ下げや、中腰、前傾状態の補助や歩行にも役立ち、高齢者や女性の方でも作業しやすくなっています。また、これからの農業で必要な、高品質で手作りの作業にも期待されています。最近では、この「パワーアシストスーツ」、介護や物流の世界でも活躍しています。両親の介護をしている私も、今後の進化に期待しています。

・2つ目は、「AI潅水施肥(かんすいせひ)システム」です。
農家の方の悩みの一つに、水と肥料のことを一日中考えて、頭の中から離れないそうです。そして今までの農業は、これらを経験や勘で行ってこられたそうですが、この「AI潅水施肥(かんすいせひ)システム」は、作物への水・液肥をチューブで供給し、それをAIで管理するシステムで、センサーが土壌水分量のデータをクラウドに送り、更に蓄積されたデータと日射予報を元に、AIが作物の成長に合わせ供給する技術です。
これであれば、精神的にも経営的にも安心が得られ、初心者の方でも関わることが可能となります。

この開発者の一人である明治大学小沢教授は、
「主にアジア諸国は、家業として農業が発達してきた。そのためにスタートポイントは、『家族経営で取り入れられること』更にそれを拡大して企業に近づけていけること。そういう大きな流れの中で役立つと考えています」と語られていました。

【スマート農業】は、こういった農家の方に寄り添った取り組みであることに注目したいと思います。どんなにテクノロジーが進化しても、それを使う人がいなければ意味がありません。
また、テクノロジー以外にも様々な取り組みがあり、例えば農家の方々が経営的なサポートをする「家族経営協定」や農村の方を対象にした交通ルートを確保する「コミバス」などなど、賢くスマートな農業を目指しています。
次回は、「農業技術」と「先端技術」を取り入れた【スマート農業】をご紹介します。